紡ぎ糸のような

【一】

「ん」
 手渡された一枚の紙を見たセイは首を傾げた。
 何かの呪文のように長い文字が書かれている。一瞥しただけでは覚えきれない。もしかしたら買い物リストだろうかと思う。それにしては聞いたことのない名前ばかりで、どんな物なのか想像もつかない。
 セイは顔を上げてディアを見た。
「それがあれば酒場から金を落とせる」
「ああ。貯金ですか」
 酒場にはお金を預けることができる。預けたお金は預けた酒場でしか引き落とすことができないため、主に町の者たちに活用されているが、旅人でも預けることはできる。
 セイ自身は利用したことがないが、旅歴が長いディアは良く利用していたようだ。
 そのときのことを思い出しながらようやく得心がいったセイは笑みを見せた。尋ねると肯定される。それならばこの長い文字は、酒場から引き落とすために必要な暗号ということだろう。よく見れば紙には暗号のほかに、引き落としに必要な事項も幾つか記されていた。
 つい最近のことだ。
 奴隷商人に売られた二人は荷物の大半を失った。宿に泊まるお金もない極貧状態だ。稼ぎたいが町まではしばらく遠く、町に滞在するにもお金がかかる。滞在できなければまとまったお金を稼ぐことも困難だ。そんな悪循環に陥り、現在はようやく見つけた洞くつで一休みし、思案に暮れていたところだ。
「ディアは行かないのですか?」
 視線の先ではディアが荷物の分別作業に没頭していた。
 売られる羽目になった宿の主人から、報復として食料や衣服、旅費を奪い取った。とはいえあまりいい顔をしなかったセイによって、奪った物資は本当に最低限のものしかない。更には奴隷商人たちの追っ手が迫っているという焦りも手伝った。何がどれほど足りないのか、細かな計算は全て後回しにされていた。
 焼けてしまって使えない服や食料は捨て、なんとか使えそうな物を選り分けていく。
 ディアの手元を覗き込んでみると、やはり焼けて役に立たないものが大半のようだった。ディアの落胆が手に取るように分かる。
「私は剣の調達」
 硬い表情で淡々と告げられる。何の感情も浮かばない横顔だが、奥に押し込められた悲嘆を思ってセイは自分の発言を後悔した。
 奴隷商人たちから逃げるとき、ディアの剣は荷物から零れ落ちた。近くまで奴隷商人の手が迫っていたため剣をそのままにして逃げるしかなかったが、もしもセイが隣にいなかったなら、ディアは命の危険を冒してまで剣を取り戻そうとしたかもしれない。
 自分の存在が負担になったと思えば気持ちも沈むというものだ。
 失った剣はディアの父の形見だったという。その剣を失ってから今まで、ディアはほとんど笑みを見せない。心の大半は剣のことで占められているようで、苛立つようなため息を零すことも少なくない。金品を失ったことより何よりも、剣を失ったことが一番堪えているようだ。乱暴に扱うことも多かったが、彼女が本当は何よりも大切にしていたと知っている。
「分かりました」
 セイは不安を残したまま頷いた。
 洞窟の外に視線を向けるとフェレーリアが大きな体を横たえている。奴隷商人たちから逃げる際、強奪してきた動物だ。空を飛行できる希少動物。フェレーリアがいれば、移動に長い時間はかからないだろう。
 それでも不安なのはディアが厄介ごとに首を突っ込みたがる性質だからだ。単に自分が離れていたくない、ということもあるが、駆け付けなければ確実に死んでいただろう事件に巻き込まれていたこともあるため、信用が置けないというのも事実だ。
「決して無茶はしないで下さいね?」
 苦い顔で告げると笑われた。しかしその笑顔も、剣を失う前と今では微妙に違う。
 ディアは腕を伸ばし、セイの額を押した。
「しつこいと言ってるだろうが、毎回毎回!」
「だってディア。毎回毎回、無茶するじゃないですか」
 殴られるように押されたセイはよろけたが、ディアの腕を掴んで反論する。ささいな触れ合いが嬉しい。
「一緒に旅をしてから事件に巻き込まれなかったことなんて、ないでしょう?」
「それ全部私から何かしたとかじゃないだろうが。ほとんど不可抗力じゃないか!」
「ディアが気をつけても駄目なら私が側にいるしかないじゃないですか」
「どういう理屈だよそれは!」
 セイは大きくため息をついた。
「行って来ますから、本当に無茶はしないで下さいね」
「へえへえ」
 全くやる気なく答えるディアに眉を寄せたものの、セイは何も言わず、自分の剣を手にした。腰から外してディアに押しやる。
「なんだ?」
 ディアは差し出された剣を怪訝に見やった。
「安物の剣ですが、何もないよりはいいでしょう」
 ディアに押し付けた。何の護身具も持たせずディアを一人にする方が心配だ。過保護だとは自分でも思うが、仕方ない。少しでも目を離していたくない。
「待てよ。私よりセイが」
「私は空の上ですから。絡まれることもないですよ」
 絡まれて時間を取られ、ディアと再会するまでの時間が長引いても困る。
 そんなことも思いながらディアの手に剣を押し戻し、ついでに彼女の目尻に唇を寄せた。反射的に殴られる。
「あのなぁ!」
 真っ赤になって怒鳴るディアに微笑みを返し、次なる反論が来る前にと地図を広げる。
「では再会場所はどこにしましょうか」
 ディアはしばらく睨んでいたが、やがて諦めたのか、剣を握り締めて乱暴に座り直した。


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 フェレーリアは本当に希少価値のついた動物だ。取り扱いには絶対の注意を払わなければならない。1頭に莫大な値段がかけられることは基本。ひとたび闇市を流れれば、一国の主でも買えないほど高額になる。1頭いるだけで、一生遊んで暮らせるだけのお金が手に入る。
 そのような生活には興味ないセイだが、世の中にはそうやって楽をしたいという考え方を持つ者の方が多いらしい。
「そうですよねぇ。でなければ宿屋の親子が私たちを売る理由もありませんしねぇ」
「なにを分からないことを言ってるんだ? さっさとそいつから離れてどっかへ行きな。せっかくの綺麗な顔が台無しになるぜ」
 セイを取り囲んだ男たちは剣を見せ付けるよう強調しながら告げた。剣呑な雰囲気を醸す彼らであるが、セイは冷めた目でその様子を一瞥する。
「顔の美醜に興味はありませんが、ディアに念押しした手前、傷つけて帰ることはできないので遠慮します」
 一瞬、唖然とした表情を見せた盗賊たちは次いで怒りを宿した。セイがフェレーリアに飛び乗ったのを見て一斉に飛びかかる。せっかくの大金を前にして、逃してなるものかと躍起になる。
 セイは剣をディアに預けてきたため丸腰だ。襲いかかる男たちを見ながら、さてどうしようかと呑気なことを考えたが、彼らがセイに届く前に、体を起こしたフェレーリアの尻尾が彼らを叩き払った。硬い鱗は剣でも傷付かない。
 セイは軽く目を瞠り、次いでフェレーリアに微笑みかけて首を撫でる。手綱を軽く引くと、フェレーリアは甲高く鳴いて巨大な翼を広げた。強い風が地面を駆ける。振り払われた男たちが立ち上がろうとしたが、再び地面に転がった。
「丸腰の相手に剣を向けるなんて卑怯ですよ。ねぇ?」
 空高く舞い上がったフェレーリアに問いかける。フェレーリアはまるで人語が理解できるかのように視線をセイに向け、楽しそうに瞳を細めて喉を鳴らせた。
「はぁ。この町は後回しですね」
 書き写した地図を広げたセイは首を傾げる。
 一、二軒回れば充分だと思っていたが、出だしは最悪だった。フェレーリアごと町に下りれば騒ぎになりそうなため、あえて遠くの森に下りたというのに裏目に出たらしい。潜んでいた賊にフェレーリアを目撃され、取り囲まれたという次第だ。まったく運がない。
「普段の行いはいいはずなんですけどねぇ」
 セイの独り言には、フェレーリアは賢い瞳を伏せるだけに留めた。
 空には暗雲が垂れ込めている。今にも雨が降り出しそうだ。空模様に溜息をつき、何もかもが自分の邪魔をしているような気分になって、フェレーリアを急がせた。


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 風の唸り声を聞いたディアは顔を上げた。嵐でもくるのかと思ったが、空は変わらぬ光を湛えている。しかし不自然に地面には影が落ち、徐々に影の濃さは増していく。更には風の唸り声も大きさを増してきて、ディアは腰を上げた。
 小屋の扉を開ければ案の定、フェレーリアが滞空している。その背にはセイが乗っており、金髪が風に煽られているのを見た。
「ディア! ご無事でしたか?」
 ゆっくりと降下するフェレーリアが地面に降り立つ前に、セイは飛び降りた。そのまま嬉しげにディアへ駆け寄る。満面の笑みだ。
 強い風に腕を翳していたディアは苦笑を洩らして肩を竦める。開口一番がこれとは、セイらしい。
 並ぶセイは既にディアの身長を超していた。横目でそれを窺い、ディアは腹立だしい思いを抱く。それでも不快ではない。ため息をこらえてセイに頷く。
「お前の方こそ、なんともなかったのか」
「ええ。この通りに」
 笑顔のままセイは袋を掲げた。金貨がぎっしりと詰まっており、袋はかなりの重さのようだ。ディアも表情を緩めた。
 そのときフェレーリアが高度を上げた。気付いた二人が顔を上げれば、フェレーリアは小屋の裏に回って翼を休ませた。どこかへ飛び立つ様子はない。そのまま体を横たえる。手綱を引かれることなくてもディアたちの意思に従うらしい。非常に賢い動物だと、ディアは感嘆する。
「それで、ディアの方は?」
 ディアは視線を戻した。腰に佩いた剣を抜く。最も近場の町で見繕った剣だ。新品ではあるが扱いにくい。刀身を爪で弾くと軽い音がする。一、二度、斬り結べば簡単に折れてしまいそうな予感がする。しかし予算が厳しい中、業物などと贅沢を言っていられない。予算内で最も良い剣がこれだったのだから仕方ない。
 案の定、セイは渋い顔で剣を見た。
「だからこれは返すな」
 ディアはセイから預かっていた剣を押し付けた。セイは不満そうな顔をしたが無視をし、ディアは小屋へと踵を返す。
 季節は冬。
 まだ雪が降るほどではないが気温は低い。空には白い雲が厚く垂れ込め、隠された太陽の光を内包していた。さきほどフェレーリアが起こす風に当たったためか体は冷たくなっていた。
 小屋へ向かうと、あまり乱暴ではない足音が追いかけてくる。斜め後ろに視線を向ければセイが気付いて微笑んで。彼はそのままディアの後についた。一人でいた間じゅう気になっていた空間が埋められる。
 ディアは気付かれないように胸を撫で下ろした。


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 激しい雨音で目が覚めた。暗闇の中で瞳を瞠った。
 真昼に見た雲は雨雲に変わったらしい。
 月も出ない闇深く。旅人のために設置されている小屋の長椅子で。
 久しぶりに――故郷の夢を見た。
 窓辺を叩く雨音を聞きながら、ディアは天井を見上げていた。強張った四肢から毛布が落ちる。それを拾うこともしないまま小さく呟く。
「…………」
 耳鳴りがする。焦燥が強くなる。何より、冷気に包まれてひどく寒い。手足の末端が冷たくなっている。脳裏をよぎる嫌な思いに恐る恐る息を吐き出す。
 無様に落ちたりしないよう、ディアは背もたれに手を伸ばして支えながら体を起こした。窓から覗く外は暗雲に覆われている。ときおりそれを裂くように閃光が走る。
 それを見ながら思い出すのは男の顔だった。幼い頃、雷を怖がっていた自分に、雷の存在理由を教えてくれた男だ。


『植物が育つためには必要なんだ』
『ふーん?』
 ディアは雷から隠れるように男の背後に回っていたが、少しだけ顔を出し、服を掴んだまま彼を見上げる。彼は微笑みをディアに向けた後、栗色の瞳を外に向ける。その横顔はどこか楽しそうだ。
 彼が楽しそうなのに自分が怯えているのは不公平な気がして、ディアは小さく呟いていた。
『……あの音が嫌』
『フレッドが腹を空かせればこんな音なんじゃないか?』
 負け惜しみのようなディアの声に男は笑う。
 フレッドとはディアの幼馴染と呼べる子どもの名前だ。ディアは彼が嫌いだった。暴力ばかり振るうのだ。どちらも同じ負けず嫌いのため、ひとたび喧嘩になれば二人とも凄惨な姿になる。そんな姿で家に戻れば父が仰天する。怒られることはないが顔はしかめられるため、父のことが大好きなディアは、やはりフレッドのことが嫌いになる。彼とはなるべく顔を合わせないようにしている。そのため、男の例え話はディアを笑わせた。雷鳴の恐怖を一瞬にして払拭させた。
 ディアは男に抱きかかえられ、もっと高くで空を見せてもらった。弱点克服がこんなに簡単なことだとは、と嬉しくなってくる。
 青紫に染まる閃光が、両手を広げてもまだ大きい窓の向こう側を走っていく。
『後で雷に関する研究を進めてみようかな』
『お願いだからやめて』
 ディアを肩車した男が呟いた。聞き逃さなかったディアはすかさず真顔で止め、男の笑いを誘う。笑う男の肩で揺られながら、ディアは本気で懇願した。


 雷に照らされたディアは瞳を細めた。
「そういや今年で21なんだよなぁ……」
 感慨深く呟く。故郷を出てきた理由を忘れたわけではない。それでも、もう一度戻りたいと思う。
 ディアは寒々しい居間を眺めた。力ない溜息を落としながら床に足をつける。毛布が短かったのか、寝ていた間中、足がむき出しになっていたようだ。かなり冷たくなっている。感覚すら失ったような足に触れると背筋が凍えた。
 独立を果たした今、自分の意志でどこへでも行ける。もちろん故郷に戻ることもできる。フェレーリアがいれば行ける範囲は更に広がる。
 ディアは靴を履きながら暖炉を見たが、いつの間にか消えてしまったらしく、炎はなかった。外から忍び寄る冷気は着実にディアを追い詰めていく。
 消えてからどれほど経ったのだろうか。眠りに就いてからどれくらい――。
 今からまた火を入れなおすのも面倒だった。
 ディアは床に落としたままだった毛布を拾い上げて埃を払う。それを肩から羽織ると幾らか寒さが和らいだが、既に冷え切っている手足はどうしようもなかった。わずかに開いた唇からため息が零れた。

『――は死んだのですか!』

 故郷を出たのも、こんな豪雨の中ではなかっただろうか。
 手を伸ばして新調した剣に触れる。特別上等なものではない、一般的な、それも最低限の強度が保たれただけの長剣。今まで使っていた剣に比べて遥かに扱いにくい物。
 失われた剣は簡単には戻らない。
 一瞬だけ瞳に悲痛をよぎらせたディアは剣を置いた。
 父の形見である剣はどこへ流れていったのか知れない。商人たちの売買ルートの断片も探れていない。剣を調達した町でさりげなく探りを入れてみたが、闇市の情報には当たらなかった。
 ディアは居間から続く廊下に視線を向けた。
 街道に設置された小屋は簡単な造りの物が多い。玄関と居間と台所。近くに栄えている町のある小屋では風呂場なども備え付けてあるが、生憎とこの小屋にそこまでの設備はない。だが寝室と居間が別部屋に区切られているのだから、悪くはない。
「さてと。どうするかな?」
 呟きながらも足は廊下に向けられていた。剣を持たないのは今さら別の剣を持ち歩くのが躊躇われたためでもあるが、敵がいないため。気配は雨が消してくれる。
「こういうとき、連れがいるのは便利なんだけどな」
 言葉にすれば憎まれ口しか出てこない。
 本当は、故郷の夢を見た今、ただあの者の雰囲気に触れたいという想い、それだけ。


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 ときおり外を走る閃光で寝室は青白く染まった。
 一瞬だけ瞳を細めたディアは部屋を見回す。扉近くの棚の上に、微かな赤い光があった。燃え尽きようとしていたのか光は次第に薄れていき、ディアに更なる寂しさをもたらした。
 ディアは火置きから視線を外し、一番奥の寝台を見た。
 炎がいま消えるということは、寝入ったばかりなのだろうか。
 横たわる人物にそっと近づいて見下ろした。寝ているのか起きているのか、動く気配はない。どちらでもディアは構わない。寝台近くの棚には剣が置かれていた。
 再び走った閃光に部屋が染まった。眠る人物の金髪も白く染まる。
 腰を屈めたディアは頬に触れようとして躊躇い、肩に触れた。その瞬間、飛び起きたセイは剣に手を伸ばそうとしたが、ディアはその腕を止める。
「ディア……?」
 驚いたように瞳を瞠るセイを横目に、今まで彼が温めていた寝台にもぐりこんだ。温かな熱に包まれる。セイが訝しげに眉を寄せた。
「どうか、されましたか……?」
 恐る恐る覗き込まれて苦笑した。残る温もりだけでは物足りなくて、セイの服を掴んで引き寄せる。セイはますます困惑したようだ。
「ディア?」
 ディアが沈黙を保っていると、セイは次いで部屋を見渡した。首を傾げている。
 ――そうそう頻繁に『実体がない奴』が現われてたまるか。
 ディアは憮然と唇を尖らせてセイに近づく。彼の胸に頬を寄せると熱が伝わり、安堵と眠気が同時に押し寄せてきた。先ほどまでの焦燥も悪寒も綺麗に消える。同時に硬直される気配を感じ、逃げられないよう服を掴んで放さない。
 やはり冬に道連れは必要だと思う。相手が同性なら更に良いが、セイであれば構わない。
「今は聖人君子で側にいろ。寒いから」
 男相手にひどい要求だと我ながら思った。しかし、脱力されながらも背中に回される腕の存在を嬉しく思う。肩を抱かれれば心地よい温もりに包まれる。ため息のような囁きが零された。
「私、保護者より恋人になりたいんですけど」
「今だけ保護者になれ」
 傲然と告げれば絶句された。
 ディアは次第に愉快になってきた。同時に少し後ろめたさも感じ、静かに視線を上げる。見下ろしていた金の瞳と視線が絡む。不満そうな目をしている。
「今だけですか?」
「……今だけ」
 熱に浮かされたかのように顔が熱い。段々と羞恥心が湧いてきたが、いまさら離れるのも癪な気がして視線を逸らせた。
「では……今夜だけ」
 諦めたかのようにセイは呟いた。ディアは満足して頷く。不意に強く抱きしめられて呻いたが、それ以上をするつもりはないようだ。力を緩められ、口付けが下りてきたが、それは唇にではなくこめかみに触れた。赤子をあやすように優しいものだ。
 ディアは息を止めたが予想していたものと外れて息をつき、顔を隠すようにセイの胸に押し付けた。


 そして、セイが目を覚ました次の日の朝。
 ディアは、小屋の中のどこにもいなかった。