前へ目次次へ

第四話

【ニ】

 奥地に入ると茂みは鬱蒼としてきて水の気配が濃厚となる。雨でぬかるんだ大地も次第に凄惨さを増して、足首まで沈む箇所もあった。少しでも気を緩めれば滑るだろう。氷上を歩くより危険なのかもしれない、とイリアは思った。
 泥の中を歩くのはひと苦労だ。ときどき足が抜けなくなる。底無し沼はないだろうが、似たような気配の大地は多々あった。一度沈みかけてからは、なるべく乾いた大地を選んで進んでいる。
「嫌だわ。こんな中で逃げるような事態になったら、確実に追いつかれる」
 その場合は追いかけてくる者も条件は一緒だ。
 イリアは唇を引き結びながら眉を寄せた。このように弱気なまま海賊と対峙しても、勝てる見込みがない。ひたひたと恐怖が押し寄せる。
「だいたい、エルミナ准佐を追いかけて欲しいだなんて、どうして私に頼むのかしら。せめてシャルゼが一緒にいてくれたら心強いのに……あ」
 イリアは嫌な想像に顔をしかめた。
「エルミナ准佐が海賊と通じてるかもしれないとは思ったけど……もしかして、ゼロ大尉も……?」
 心臓が凍りつくような想像だ。イリアは慌ててかぶりを振る。
「ううん。あの紋章は本物だったわ。海賊の偽造技術なんてあるわけがない……ああ、オーカキス島全体が海賊の一味だったらどうしよう」
 嫌な想像ばかりが広がっていく。島ぐるみの企みなら辻褄が合う。本土を信用させて軍の動きを知り、情報を操作して海賊たちを匿うことなど容易いだろう。
 あるはずがない、と否定しながらもどこかで不安は首をもたげている。
(お父さまは、本当にどういうつもりでエルミナ准佐を信用するなんて――)
 昨日の悔しさが蘇って顔を俯けた。
 しかしそれでも、父が軍の指揮を執っていることに変わりない。やはりカラドレットを欺いてでもヴェラークに応援を頼むべきだったのかもしれない、と後悔が湧く。オーカキス島には今、強い戦闘力を持つ者ばかりが集められている。彼らを動かすことができれば最強だ。
 イリアは足を止めた。
 司令部を出てくるとき、カラドレットが身につけていた紋章を思い出す。イリアたちにはゼロ大尉だと挨拶したが、先ほど見た紋章は“大佐”の地位を示していた。けれど彼はヴェラークを出迎えたとき、大尉の紋章を身につけていた。ヴェラークはそれでも何も言わなかった。
「どっちが、本物なの……?」
 よけいに混乱してきた。ヴェラークがカラドレットの階級を間違えるはずがないから、カラドレットの真の階級は大尉で合っていることになる。けれどそれでは、わざわざ彼が大佐の紋章を身につけて現れた意味が分からない。
 イリアは唇を引き結んで踵を返した。確かなことは、ヴェラークが海賊を捕らえるために島に来たこと。それだけが今は信じられる真実だ。そして、オーカキス島が炎に包まれることは絶対に嫌だ。ならば、確かな者に従うべきだ。
 そう決断して走り出そうとしたとき、イリアは視界の端に赤いものを見た気がして、振り返った。
「何……?」
 水の気配が濃厚となる場所。
 そちらは当初、エルミナが声をかけてイリアを引き戻した場所だった。
 イリアの心臓が高鳴った。
 周囲には誰もいないことを確認する。気配を忍ばせながら海に近い方へ向かい、覗き込んだ。水を含んで鮮やかに茂る緑の合間から、自然物ではない輝きが見えている。
 赤と金。
 イリアは瞳を細めて身を乗り出した。目を凝らして息を呑む。
 岸壁には、目立たない小さな一隻が寄せられていた。その傍らにはエルミナがいる。彼女が話しこんでいたのは、ダルスだった。
 イリアは思わず漏れかけた悲鳴を飲み込んだ。
 エルミナたちは互いを見知っているかのような雰囲気で話し合っていた。真剣な表情のエルミナに対し、ダルスはやる気のない様子で地面を蹴っている。ときおりエルミナに頷き、視線を向けて言葉を返す。
 二人の姿を見た途端、イリアは逃げ出したくなった。これ以上この場にいては危険だと直感した。
 オーカキス島には既に、赤い海賊という不穏分子がある。この上ダルスまでもが出てきたら収拾がつかない。状況は悪化し、ヴェラークたちだけでは対処しきれないかもしれない。
 イリアはダルスたちから視線を逸らすことができないまま、どうしよう、と呟いた。
 近くの幹をつかんだ手には汗が滲む。緊張のため、体温が下がる。
 やがて、視線の先でエルミナが顔を背けた。一言二言、ダルスに何かを告げる。ダルスは瞳を軽く伏せて頷いた。
 どういう関係なのかとイリアは首を傾げる。赤い海賊ばかりでなく、エルミナはダルスとも通じていたのだろうか。
 シャルゼがいれば二人の会話を聞けたかもしれないが、いない者には頼れない。今からシャルゼを連れてきても遅いだろう。
 イリアはその場からなぜか動けずに立ち竦んでいた。
「――イリアが――」
 なぜその言葉だけが聞き取れたのかは分からない。
 イリアは驚いてダルスを見た。
 彼は船から降り、エルミナに背中を向けて笑っている。彼の体がイリアに向いたため、言葉が聞こえたのだろう。ちょうど良い具合にイリアは風下だ。ダルスは再びエルミナに振り返り、耳打ちするように距離を詰める。イリアからは唇の動きを読むこともできなくなった。
 イリアは唇を引き結んで拳を作った。今のうちにこの場を離れ、報告しに行こうと思った。しかし、イリアよりも先に二人の方が動いた。エルミナだけがその場に留まり、ダルスが歩き出す。
 島の端を辿りながら、ダルスは離れていく。
 どこに行くのかと、追いかけてみたい気持ちが湧いたが、エルミナがまだ目の前にいる。動いたら気付かれてしまうかもしれない。息を殺しながら残されたエルミナを窺う。
 エルミナはダルスの後ろ姿を見送ったあと、わずかに嘆息して歩き出した。司令部に戻ろうというのか、それとも別の目的があるのか、イリアに近づいてくる。
 イリアは慌てて顔を引っ込めた。このままでは見つかってしまう。今から木登りするわけにもいかず、そのままうつぶせる。茂みが揺れないように気をつけながら、素早く腹ばいとなる。
 この場所が乾いていて良かった、とイリアは思った。それでも、ぬかるんだ大地の匂いが鼻につく。湿地帯のようになった場所だからなのか、服は直ぐに湿り気を帯びて、冷たさが体を包んでいく。
 息を殺して数秒――エルミナは気付かなかったようで、イリアが潜む茂みを通り過ぎた。
 エルミナの気配が消えてから充分な時間を置いて、イリアは立ち上がった。辺りを見回してみたが、既にエルミナの姿も、ダルスの姿もない。ようやく安堵する。
 服は湿っていた。どこから跳ねたのか泥もついており、叩き落そうとしたが、余計に汚れが広がっただけだった。洗濯しなければ落ちないだろう。
 軽く嘆息して顔を上げる。湿地帯と化したこの場所に長く留まることだけは避けたい。もう少し乾きが多い場所に行かなければ、満足に逃げることもできない。矢を射掛けられれば簡単に標的となる。
 イリアは少しだけ迷ったあと、司令部に戻ろうと決めた。もしかしたら途中でエルミナに追いつけるかもしれないと考えた。そうして走り出そうとしたが、次の瞬間、後ろから伸びて来た腕に捕らえられていた。
「――っ」
 悲鳴を上げようとしたが口が塞がれる。
 脳裏を支配したのは真っ黒な恐怖。塞ぐ指を噛み切ろうとしたが、口を動かせないほど強い力だった。抱え込まれ、肘を突いて逃れる手段も取れない。
「まさかこのまま逃す手はないよな?」
 頭上から響いた声に体が震えた。首が痛いほど強く振り返る。それでも見ることはできず、視線が空回りする。
 本当は声だけで正体が分かっていた。動悸に涙が浮かんで、きつく目を瞑る。
「放しなさい、ダルス」
 命令したのはイリアではなく、エルミナだった。
 イリアは目を瞠る。先ほどこの場を離れたばかりの彼女が、いつの間にか戻ってきている。演習時の険しい表情でダルスを睨んでいる。
 背後から苦笑する気配が伝わってきて、イリアは眉を寄せた。
「放せば大声を上げるかもしれないぜ?」
「聞く者はいないわ。逃げようとすれば貴方の風で捕らえればいい。貴方にはそれくらい簡単でしょう? この辺りはカラドレットの指示で閑散とさせている」
 エルミナの言葉にダルスは逡巡したようだが、言われるがままイリアを解放した。イリアは地面に転がるようにしてダルスから離れる。
 勢い良く振り返り、ダルスを睨む。このように間近で相対するのはずいぶんと久しぶりに思えた。ダルスの笑みが憎らしい。
「貴方たち――通じていたのね!」
 イリアは立ち上がり、二人から距離を取るように後退する。エルミナもダルスも黙ったままで、悔しくて歯噛みした。侮られている。
 司令部に走りたくても、進路はダルスとエルミナが塞いでいる。彼らを突破して行くのが不可能に思える。背後は海だが、昨夜の消耗が激しすぎて、思い通りに操ることは難しいだろう。
 しかし海へ視線を向けたイリアを危惧したのか、ダルスが一歩を踏み出した。エルミナが腕だけでそれを制し、前に出てイリアと対峙した。
「さて。ヴェラークとミレーシュナの愛娘。どうしようかしらね?」
 淡々としながら首を傾げるエルミナに、イリアはやはり能力を使おうかと迷った。消耗が激しいのは覚悟の上。死ぬよりマシだ。
 イリアが意識を集中させようとしたとき、ダルスが眉を寄せた。
「その腕は誰にやられた?」
「え?」
 イリアはダルスの視線を辿り、自分の左腕を見た。そこには赤い海賊によってつけられた痣がある。ほとんど消えかけていて、痛みももうない。
 ダルスの目から隠すように、イリアは痣の部分を右手で覆った。
 ダルスが近づいてきて、その腕を取る。先ほどまで拘束していた力とは異なり、優しいものだ。イリアは意外に思いながら彼を見上げる。
「ふん。いい度胸だ」
 瞳に剣呑な光を宿してダルスは笑う。
 イリアはどこか安堵して肩の力を抜いた。それでも戸惑いが抜けることはなく、ダルスとエルミナを見比べる。
「二人はどういう関係なの……?」
 ダルスは低く笑った。瞳を緩ませ、先ほどまでとは異なる声音で。
「エルミナは俺の姉だ」
「嘘!」
 さすがにそんなことで騙されるイリアではない。思わず叫んだ。エルミナにとってもその言葉は不本意だったようで、険しい表情でダルスを睨んでいる。
 二人の視線を受けて、ダルスはまた笑う。
「嘘ではないさ。なぁエルミナ?」
「どうやらそのようね」
 詳しい説明を面倒だと思ったのか、それとも真実なのか、エルミナは軽く肩を竦めた。もしかしたら先ほどは「なぜ真実を明かすのか」といった怒りだったのかもしれない。イリアは混乱した。
「どういうつもりなの、エルミナ准佐……!」
 ダルスに腕をつかまれたまま体を乗り出したイリアだが、直ぐに引き戻された。ぬかるんだ場所に足を踏み込んで転びかける。その体を横からすくわれ、イリアはダルスに抱え上げられた。
「何」
「お前1人を放っておいたら厄介なことになりそうなんでな。俺が島を脱出するまでは傍にいて貰うぞ」
「冗談じゃないわよ……!」
「大声は上げない方がいいわ、イリア=カーデ。この少数で見つかったら、こちらに勝ち目はないのよ?」
 イリアはエルミナを睨む。この辺りは閑散としていると告げた口で、今度はどんな嘘をつくのか。エルミナはダルスの横に並んで歩き出す。先ほどから一度も笑わない。
 彼女がダルスの姉だというのは本当なのだろうか。半信半疑でエルミナを見つめる。
 すべての疑問を胸に封じ、唇を引き結び、今だけはこのまま、彼らに従っていようと諦める。けれど一言だけ、エルミナに言葉を向ける。
「……ゼロ少佐から、貴方を拘束するように指示を受けてきたのよ」
「そう」
 エルミナは淡々と頷いたが、その唇には小さな笑みが浮かんでいた。


 :::::::::::::::


 オーカキス島のサーフォルー海軍司令部では密かな企みが進行していた。
 イリアを送り出したあとのことだ。
 彼女が裏門から出ていくのを窓から確認していたカラドレットは部屋を振り返った。そこにはシャルゼがいて、面白くなさそうな顔をしている。ヴェラークが散らかしていった海図を読んでいた。
 そんな様子にカラドレットは笑みを浮かべる。癖のある者ばかりが集まると、まとめるのにも一苦労だ。けれどその分、働きは相応の物になる、というのがカラドレットの持論だ。
「ザグレイ。ティニス。スロット。入って来い」
 カラドレットが扉に向かって声をかけると、扉は直ぐに開かれた。
 イリアが外へ出るときは誰もいなかった。彼らは時間を見計らって来たのだろう。この密談が最初から仕組まれていた、いい証拠だ。
 シャルゼはますます面白くない気分で表情を険しくさせ、カラドレットの笑みを誘う。
「紹介しよう。顔はもう知っているはずだが。ザグレイ曹長。ティニス伍長。スロット伍長。私の部下としては結構な古株だ」
 紹介された三人はそれぞれ敬礼したが、カラドレットの言葉には嫌そうな顔をした。
 一度はエルミナから紹介されていた者たちだ。
 シャルゼは黙ったまま彼らを見つめる。
「君はこの三人と行動を共にし、オーカキス島南部に網をかけて欲しい。そちらは今、私の命令で警戒が手薄になっている」
「イリアを先遣として行かせたということかしら?」
 オーカキス島南部とは、早い話が司令部の裏門から出た先のことで、イリアが向かった先だ。司令部はもともと島の南に位置している。そこから更に南へ行けば、海が広がるばかりだ。
 胡乱な目をするシャルゼに、カラドレットは真剣な眼差しのまま頷いた。
「君の能力はいざというときに役立つだろう。期待しているよ」
「裏切るかもしれないわよ?」
「君が意に染まぬことをするとは思えない。イリアが危機に陥ったとき、能力を使わないでいられるかな」
 シャルゼは顔をしかめた。
「噂どおり、嫌な男だわ」
「有能だ、と褒めてくれ」
 黙って話を聞いてた三人が忍び笑いを洩らした。その気配を感じたシャルゼは眉を寄せ、不機嫌に顎を逸らして口をつぐんだ。それは不本意ながらも同意したという態度だった。
「艦長たちの了承を得ているのかしら」
「得てなどいない。既に事態は動き出してしまった。俺にできることは、エルミナが目的を達せられるように、少しでも助力することだけだ」
 シャルゼはカラドレットを見据えた。
「軍を裏切ってまでする価値があることかしら」
「この島にいる者たちは誰もがエルミナに同情的だ。彼女は知らないことだが」
 カラドレットは自分の紋章を指で弾いて笑った。
「どうやって紋章を入手したのか知らないけれど。エルミナ准佐もゼロ大尉も、どちらも偽の階級だったというわけね」
 カラドレットは意味ありげに笑う。
 ――カラドレット=ゼロ少佐。それが彼の本来の階級だ。エルミナが使用していた紋章は、彼が以前使用していた物だろう。監査をすり抜けられた理由は分からない。けれど、紋章の重複所持は当たっていた。
「なぜ貴方が部下になろうと思ったのかしら。エルミナに准佐の紋章を与えて満足していれば良かったのではないの」
 失礼な物言いにもカラドレットは怒らない。いかにも温厚そうな笑みを湛えたまま、淡々とシャルゼに頷く。
「彼女はこの島で特別な存在だ。彼女を部下にしたとしたら、上官に横柄な態度を取ったとき、罰しなければならない。色々と支障がありそうだったんでね」
「そんな工作しても、奇妙さは拭えなかったわよ」
 カラドレットも充分、上官であるエルミナに横柄な態度を取っていたと思う。
 シャルゼが不機嫌に呟くと、それまで黙っていた三人が身を乗り出してきた。
「ほら、だから言ったじゃないですか。少佐が部下を務めるのは無理があるって」
「ミレーシュナ様の娘を騙すなんて反対したんですよ」
「エルミナさんも、杜撰な計画だと言っていたのに。どうしてそのまま決行されたんですか」
 部下三人からの冷たい視線に、カラドレットは顔を背けた。
 ザグレイとスロットはそれでも口喧しく追及する。ティニスだけがその輪から外れて窓に近づいた。内ポケットから黒いハンカチを取り出す。シャルゼが見ている前で、それは素早く形を変えて組み立てられ、小さな望遠鏡となった。本土でも流行の、折りたたみ式の望遠鏡だ。場所を取らないことが最大の特徴で人気だった。在庫は常に空で、滅多に入荷されない。大変高額で珍しいものだった。
 ティニスは無言のまま望遠鏡を覗き込んで、直ぐに口を開いた。
「見つけましたよ、エルミナさん。無事にダルスと合流できたみたいです。合図が見えます」
 シャルゼは瞳を瞠る。部屋の一角で低次元な言い争いを続けていたカラドレットたちがティニスに駆け寄った。
「嘘、もうっ? 僕の予想じゃもう少し時間が」
「スロット。どけ」
 身を乗り出したスロットだが、カラドレットが無情にも押しのけて望遠鏡を奪った。楽しそうに覗き、エルミナを確認する。駆け寄らなかったザグレイが呆れた表情をした。
 やがてカラドレットは視線をシャルゼに向けた。そこからは、巻き込むぞという意志がありありと伝わってきて、ため息を零す。
「私の経歴に傷をつける罪は重いわよ」
「我らが全力で支援いたしましょう」
 シャルゼは過去にレナードたち海賊を助けたことなど棚に上げて睨んだ。
 ザグレイの言葉に渋々頷く。
「ダルスを呼んだのは貴方?」
「実際の伝達手段を持っているのはエルミナさ」
 けれども同じことだ。シャルゼは情報を整理しながら彼らに向かう。
「では、エルミナはダルス側だと捉えていいのかしら。赤い海賊とも通じていると考えたけれど――貴方たちの行動を見る限り、その線は薄いわね。赤い海賊の方が、貴方たちにとっては予想外だった、と考える方が自然だわ」
 カラドレットは笑った。
「さすがだ、シャルゼ=アーリマ。赤い海賊は、予想外と言えば予想外だがエルミナにとっては好都合なことだ。ダルスたちにとって、長年の目的――標的だった」
 シャルゼを手招きして望遠鏡を渡す。窓の外を見るように促す。
「イリアがダルスに辿り着いた」
 差し出された望遠鏡を一瞥したシャルゼは、受け取らずにそのまま窓の外へ飛び出した。慌てるスロットたちの声を聞き流し、司令部の屋根に足をつける。目を凝らし、そこにカラドレットたちの言葉通りの場面を見つけ、ため息を零した。

前へ目次次へ