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魔王の受難

【クリスマス企画小説】

「ええい、なにをしておるのだ! 違う違う、そうではなかろう。もう少し右だと言っておる。ああ! なんてことをしてくれるのだ! お前たちでは埒が明かぬ。ちょっとどいておれ!」
 城の前に大きなもみの木。
 いったいどこから調達してきたのかと言えば、魔王さまが密かに裏山で育てていたという。
 桜といい、このもみの木といい、魔王さまは何を考えて裏山に植えているのだろうか。きっとまだなにか植えられているに違いない。
 あとで密かに確かめてみようと心に決めて、プラチナはマフラーを口許まで引き上げた。
 目の前では部下たちと魔王さまが必死にもみの木を植えている。裏山から掘り起こしてきたらしい。大切に育ててきたらしいその木を、魔王様はハラハラしながら命令を飛ばして植えており、それでも何かしないではいられないのか、結局は部下たちを脇に追いやって積極的に植樹を完成させる。
 真剣な彼の様子にプラチナは頬を緩めた。
(そんなところも好きなんですけど)
 魔王さまはひとまず納得したのか、城門まで下がるともみの木の様子を眺めた。その顔は誇らしげに輝いている。手伝った魔物たちも魔王さまの様子に安堵したのか、一様に肩から力を抜いていた。
「うむ。あとはこれに飾りつけだな、プラチナ?」
「ええそうですよ、魔王さま。いい魔物にしていれば、サンタから素晴らしい贈り物がありますからね」
 素晴らしい、を強調して告げると魔王さまは瞳を輝かせて笑顔を見せる。プラチナも笑顔で頷いた。
 魔王ともあろうものがサンタからのプレゼントを希望してどうするのか――そうは思ったが口に出さない。
(まぁ、面白けりゃ何でもいいんだけどね)
 サンタが魔王城の前で回れ右しないかと思いながら、プラチナは肩を竦めた。

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「つまらーんっ」
 臙脂色に染まった仕事部屋のなかで、来る日も来る日も仕事に明け暮れていた魔王は、ついにたまりかねたのか勇者からの果たし状を部屋にぶちまけた。
「ああそうですよねー。やっぱり部屋の模様替えは一日一回が基本ですよね。では次は蛍光黄色で集中力アップを目指しましょう」
「余計に疲れるわ愚か者ーっ」
 二十年間もこのツッコミに恋焦がれていたプラチナは笑顔で胸の前に両手を組んだ。魔王は先ほどのツッコミをさらりと流し、もう次の段階へ進んでいる。
(うんうん〜、この素早い切替えも魔王さまの魅力なのよねー)
 愛らしい後頭部を見ながらプラチナが「うふふふふふ」と笑い声を上げると、魔王は悪寒を感じたのか体を震わせた。散らかした果たし状を見向きもせずに、魔王は机の中を漁り始める。彼が眠りについてから二十年、まだ一度も開けたことのない新品の引き出しだ。
「どわああ!?」
 もちろん、開けたことがないのは魔王のみで、プラチナはしっかりと罠を仕掛け済みだった。二十年間一度も発動しなかった罠がようやく牙を剥いた。目撃者となったプラチナは嬉しそうに魔王に駆け寄る。
「きゃああ、魔王さま。これくらいで驚いてどうするんですか。魔王さまともあられるお方が!」
 引き出しから物凄い勢いで飛び出してきた小悪魔たちに驚き、床に転がった魔王はプラチナを睨んだ。小さな手には小悪魔たちに噛みつかれた牙跡が幾つか残されている。睨まれたプラチナはニコリと微笑む。魔王の睨みなど、外見が子どもなのでちっとも怖くない。むしろ可愛い。頬擦りしたいほどだ。
「はい。痛いの痛いの飛んでいけー」
「我を子ども扱いするなー!」
 小悪魔たちは消え去り、引き出しは本来の役目に戻った。
 散らかった果たし状を集めると、魔王は引き出しの中に丁寧に収めた。そしてできたタンコブに手を翳して治す。魔王としての力は大分戻ってきたらしく、睡眠前に及ばないまでもかなり強い力を使用できるようになっていた。
「で。なにがつまらないんですか、魔王さま?」
「最初にそれを聞くのがお主の役目ではないのか?」
「私の役目は魔王さまのサポートですよ。魔王さまが退屈して仕事に影響が出ないよう、退屈を紛らわす仕掛けをしっかり施すのが私の役目です」
「過ぎる仕掛けは体に悪影響じゃあ!」
(でもそれくらいしないと魔王さま、ぜんぜん構ってくれないんですもん)
 プラチナは胸中で舌を出しながら「はーい」と呑気な声を上げた。魔王は「うむ」と椅子に座りなおす。
「それでだな」
 先ほどの続きに戻るらしい。
「我は起きてから勇者の手紙をずっと読んでおるが、そればかりの日々に飽きたのだ。そろそろ別の遊びを考えぬか?」
 実は勇者との対決は、睡眠前の魔王が考え出した遊びの一つだった。
 お金も入るしストレス解消にもなるし魔王の恐ろしさを知らしめることにもなるしと良いことづくめ。積極的に勇者と対決していた魔王は次第に人気者となっていき、今では毎日大量のお手紙が届くようになったというわけだ。この国の勇者は人付き合いがいい。律儀に魔王のお遊びに付き合ってくれる。
「そうですねぇ」
 プラチナはうなる。勇者からの果たし状を一枚一枚手直しして魔王に見せる、単調な作業にも飽きてきた頃だ。覚醒直後の魔王は顕著に反応したが、今では慣れてしまったのか、プラチナがわざわざ間違えるよう書き直した果たし状を見せるくらいでは驚かなくなっていた。
『他人を陥れるためならば、たとえ地味な作業でも手を抜かぬべし』
 これは魔物全体に刻み込まれた鉄則だ。
「あ、そうだ魔王さま」
「なんじゃー?」
 つまらなさそうに椅子から足を投げ出し、ぶらぶらと揺する魔王に極上の笑みを向ける。魔王の頬がわずかに赤くなった。それを見たプラチナは満足して再び笑みを浮かべた。
「異国ではですね。クリスマス、というイベントがあるらしいですよ」
 身を乗り出した魔王に、プラチナは囁いた。


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 遠い異国でのイベントに魔王がどこまで入り込むのか分からないが、プラチナは確実に育っていく眼前の光景に笑みを浮かべていた。
「さぁプラチナ! もみの木も煙突も暖炉も用意したぞ! 暖炉には、城中の婆やに手編みさせたでっかい靴下も吊るしておる!」
 因みに、超どでかい手編みの靴下は、吊るすというより暖炉全体を覆っている。火が燃え移らないか心配だ。けれど魔王は興奮を抑えきれない表情でプラチナを見上げている。邪心の欠片もない彼の笑顔はそれだけで罪だ。邪心くらい養って欲しい。
 プラチナは「そうですねぇ」と首を傾げた。
 あまりにも遠い異国のことなので、実はプラチナにも分からない部分が多い。けれどそんなことは口が裂けても言えない。それぐらいならば自分でそれらしきイベントを作り上げてしまおう。どうせ誰にも分からない。
 プラチナはゆっくりと思考を巡らせた後に口を開いた。
「じゃあ、さっき言った通り、皆で飾り付けをしましょうか」
 魔王は直ぐに反応した。
「よし。サンタとやらがこの城を見逃さぬよう、派手に飾り付けてやろうではないか。皆のもの! 手伝え!」
 城に残っていた魔物たち全員に召集命令がかかった。彼らは誰一人欠けることなく魔王のお遊びに付き合ってくれる。なんとも協力心に溢れた部下たちだ。
「プラチナよ。サンタとはどのような奴なのだ?」
「聞いた話じゃ、全身赤いそうですよ」
 魔王は目を丸くする。
「全身血染めなのか。人間ながら侮れん奴だな」
「本当ですねー」
 プラチナは否定しない。今さら魔王がどう間違おうと、後で面白可笑しく間違いを披露してくれれば問題ない。種は蒔いておくに限る。
「トナカイっていう動物に乗って、空を飛んでくるそうです」
「使役の術も身につけておるのか。ううむ。ますます興味深い」
 もしもサンタが現われたら、空飛ぶ動物もプレゼントして貰おう、と魔王は真剣に願った。そんな魔王を横目で見たプラチナは笑う。自身の言葉を疑いもせず信じる魔王が愚かしくて愛しく思える。
『魔王さまー。もみの木、完成しましたー!』
 魔王とプラチナがサンタについて見解を深めている間、飾りつけを任されていた魔物たちから声が上がった。
 魔王とプラチナは振り返る。
 魔王は「おお」と感嘆の声を上げたが、プラチナは「うわ」と驚嘆の声を上げる。二人は全く異なる感情を抱いた。
 二人の目に映ったのは、城に負けず劣らず大きく立派なもみの木だった。
 城には収集癖のある魔物が多くいた。光り物好きな魔物たちは、光り物を。石好きな魔物たちは石を。死体が好きな魔物たちは何かの頭蓋骨を。それぞれが素敵だと思っている物たちが、立派な葉にくくりつけられ、実に適当におどろおどろしさを演出している。気付けば誰かのらくがきまで飾られていた。充分な収集ができなかった魔物の苦肉の策だろう。
 魔王はそれらをひとつずつ見て回り、それぞれがどの魔物の物なのか確認していく。いつの間にか頂上に近いところには、魔王の仕事部屋に飾られていた武器や鎧が飾られていた。あれを飾り物にするなど魔物たちのセンスはなかなかのものだ、と魔王は興奮気味に感心した。サンタも逃げ出す不気味さだ。
「いい感じではないか」
「えー、そうですかー? そこだけは美的感覚の違いって奴ですねー」
 プラチナは腕組みをして唇を尖らせたが、無邪気にはしゃぐ魔王を見ているとどうでもいい気分になってくる。
「これで準備は万端だなプラチナ」
「そうですねー」
 頷いて空を見上げる。
 快晴だ。
 クリスマスには雪がつきものだと聞いていたが、この様子では夜まで雲もかからない。実に綺麗な星空が見渡せるだろう。
「魔王さま。いっそのこと雪も降らしちゃいません? トナカイは雪がないとサンタを引っ張れないらしいですから」
「なんだと。なんて不便な動物だ。やはり我にはそのような動物は不要だな」
「そうですね。魔王さまには、雪なんてなくても引いてくれる力自慢の部下たちが沢山いますからねぇ」
 プラチナの声を聞いた魔物たちは一斉に首を振って否定したが、魔王の目には映らなかった。彼は真剣な瞳で腕組みをし、何か考えごとをしている。何を考えているのだろう。プラチナが覗き込もうとすると、魔王は両手を空に突き出した。
 プラチナは得心がいった。彼は本当に雪を降らせるつもりなのだ。
『一度やると決めたら最後まで徹底的にやり抜き通すべし』
 魔物たちの絶対法則だ。
(さっすが魔王さま。一途さでは誰にも負けてませんね)
 二十年もの眠りから覚めた魔王は、けっこうな集中力を費やして天候を操った。
 空が曇り始める。先ほどよりも冷たい風が吹いてくる。
 プラチナはマフラーを巻き直し、手袋二枚重ねに挑戦した。耳宛もしっかりと装着する。
「魔王さま、最近は調子が良いですね」
 けれど魔王は聞いていない。真剣な表情で雪雲を呼び集め、さらに重ねて分厚く作り直す。それから幾分もしないうちに雪を降らせ始めた。一つ、二つ。繊細な結晶が幾重にも重なり、空気を孕みながら静かに舞い落ちてくる。
「きゃ〜。ホワイトクリスマス確定ですね。魔王さま!」
 今年の初雪にプラチナは歓声を上げた。両手を頬にあてて瞳を細める。もみの木に降り積もる雪は頼りなげに見えた。
 異国でクリスマスといえば、恋人たちの聖なる夜だ。夢魔とも呼ばれるサッキュバスのプラチナは魔王の横顔を盗み見た。
(おいしくペロリと魔王さまの夢を食べさせてもらっちゃおう)
 魔王は両手を空に掲げ、いまだ真剣な表情で雪雲を集めている。もう術を解いても、あとは自然に雪は降り続けるだろうに、術が解かれる様子はない。魔王は瞳を閉ざしたままだ。
 雪は段々と勢いを増していく。もみの木の頂上は吹雪にかすんで見えなくなった。
「あのー、魔王さま? 幻想的な風景が壊れていくんですけど」
 プラチナが静かに口添えしたが、どうやら魔王の耳には入っていないらしい。防寒対策をしていなかった魔物が一匹倒れた。氷付けになっている。それでも魔王は集中を解かない。雪は見る間に猛吹雪となる。
 プラチナはさすがに寒くなって腕を抱え込んだ。
 そんなにサンタに会いたいのだろうか。いったい何をプレゼントして貰うつもりなのか。
 視界の端でバタバタ倒れていく魔物たちをほのぼのと見つめていたプラチナは、魔王の後ろ襟をつかんだ。魔王が目覚め、世界に散り散りになっていた部下たちは、最近ようやく集まり始めてきたところだ。ここで彼らを全滅させてしまったら、城の雑用は再びプラチナの役目となる。聖なる夜を邪魔されても困る。プラチナは襟首をつかまれてもまだ集中して空に手を伸ばす魔王を引きずりながら、城内に戻った。
 もみの木の下で氷付けになった魔物がまた一匹、雪原に倒れた。


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「あら。ダーギャロスちゃん」
 城内に戻った二人を出迎えたのは、魔王の叔父にあたるダーギャロスだった。
 前魔王の弟だ。結構な高年齢だが、魔物に歳はあまり関係ない。プラチナの良き理解者として、共に魔王を溺愛している。
「お風邪を召されませぬよう」
 差し出された分厚いタオルを受け取ったプラチナは満面の笑みを浮かべた。
「この中に何を仕込んでるのかなー?」
「はい。体が温まるように、唐辛子を仕込んでおります」
 ふふふふ、はははは、と二人は奇妙な笑いを交わす。
 しばし笑顔での睨み合いが続いたあと。二人はタオルをつかみながら同時に魔王を振り返った。
「魔王さま。私がお体を拭いてさしあげます!」
「なんのプラチナさま。ここは私にお任せあれ」
 いまだ集中を続けていた魔王に二人が飛びかかる。魔王は二人に潰され、「ぐえ」という鳴き声をあげた。ここでようやく術を解き、我に返る。
「なんじゃなんじゃ貴様ら。いったい何をしておるっ?」
 魔王が叫んだがここは負けられない、とプラチナは意気込んだ。魔王さまで遊ぶのはこの私だ!  プラチナは素早く魔王の髪をつかんだ。
「魔王さま。頭がこんなに冷たくなっています。直ぐに乾かさないと凍りついてバリバリに壊れ、禿げてしまいますよ」
「大変です魔王さま。お顔がこんなに幼くなってしまって。直ぐにこのタオルで拭いてさしあげましょう」
 二人は意味不明な説明をしながら魔王にタオルを押し付けた。
「ぎゃああ、何をするのじゃ貴、が、辛っ、何、おおおおっ?」
 魔王が発狂した。
「何の真似じゃ貴様ら! 我は偉大なる魔、辛!」
 死に物狂いで二人を振り解いた魔王は、安全圏まで逃げると真っ赤な顔で振り返った。まだ辛いのか、口上の途中でぺっぺっと何かを吐き出すような仕草をする。唐辛子仕込みのタオルは口の中に入っていないはずなのだ。もしかしてダーギャロスが何かしたのだろうか。
 プラチナはそっと隣の老魔をうかがったが、彼は穏やかな微笑みを浮かべたまま魔王を見るだけだった。
「もうお主たちには付き合っておれん。我は食事に向かう!」
 怒りのためか辛さのためか、紅潮した魔王は足音高く食堂に向かった。けれど足音以上にマントがはためく音がうるさくて聞こえない。
(あ、魔王さま、マントを踏みつけた)
 一瞬転びかけた魔王は慌てて体勢を立て直した。周囲にも明らかな挙動不審で辺りを見回す。恐る恐るプラチナたちを振り返る魔王は酷く愛らしい。プラチナとダーギャロスはもちろん無視などできず、魔王とばっちり視線を合わせると、微笑ましく手を振った。魔王はがっくりと肩を落とし、食堂に向かった。


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「うむ。絶好のサンタ日和だな!」
 食堂で好物ばかりを並べられた魔王は、廊下での失敗を忘れることにしたらしく、上機嫌だった。食堂の窓から外を眺めて笑う。プラチナも付き合って外を眺める。窓をガタガタと揺らす猛吹雪を見ながら「そうですねぇ」と頷きを返す。
「これだけ吹雪いておれば、トナカイとやらもサンタを百人引きずってこれるであろう!」
 ワイングラスを片手に嬉々とした表情だ。未成年だなんて野暮なことは言ってはいけない。いくら幼い容貌だとはいえ、魔王はアルコールを飲める歳だ。そしてここは、彼が中心の世界だ。
 因みに魔王は今年で345歳だった。ゾロ目の歳だ。何か盛大なプレゼントを用意しなければ、とプラチナは別方向に意識を飛ばしながら考えた。
 先ほどまで並んでいた食事はもう魔王のお腹に消えている。新たに出されたのは異国の料理。魔王がサンタに憧れていると知った料理長が、クリスマス料理を必死に調理したらしい。七面鳥やオードブルなど、いったいどこで手に入れたのだろうと思うような、見たこともない料理が並べられている。非常に鮮やかだ。見ているだけでも楽しい。
「うむ。クリスマスがこんなに楽しいものならば、また来年もやってみるか!」
「気に入りましたか、魔王さま」
「当然じゃ! さすがプラチナ。我の遊びツボを心得ておる」
「お褒めに預かり恐縮です」
 唯一残念なのは、せっかく用意したもみの木がこの吹雪によって見えないことだ。しかし魔王が気に入ったのなら良しとしよう。
 プラチナは笑顔を浮かべた。魔王も力強く頷く。本当に楽しそうだ。いったい何が楽しかったのだろう。やはりあのもみの木だろうか。
「さて。あとは寝るだけで、朝にはサンタがプレゼントを置いていってくれるのだな?」
「はい。そうですよ」
「よし。我はもう寝るぞ。今夜は夜更かしもしないで良い子にするのだ」
 魔王は高らかに宣言したが、彼が夜遅くまで起きていたことはない。だがプラチナは余計なことは言わずに「そうですね」と頷いた。足取り軽く食堂を出て行く魔王を見送る。
 そして。
「ダーギャロスちゃん」
 一緒に食事をしていた彼に呼びかける。
 視線を絡み合わせた二人は、共犯者だけが持ちうるeye to eyeで視線を交わし、密やかな笑みを浮かべたのだった。


 翌朝。
 日が昇るまで待ちきれなかった魔王がうきうきと寝室から飛び出してきた。昨夜のうちに暖炉にかけていた巨大な靴下まで駆け寄る。はちきれんばかりの期待を胸にしながら彼が靴下を開いたところ、クラッカーを弾けさせるように、中からはピアが大量に飛び出してきた。

『魔王さま。ご結婚おめでとうございます。プロポーズは小さな村の中心で大絶叫!』

 という見出しの新聞を抱えた、大量のピアだ。
 無我の境地に陥る魔王へ「メリークリスマスです魔王さまぁ!」と可愛らしい声で祝福を授けながら部屋を飛び回る。体を幾つにも分裂させた彼女はひととおり飛びまわった後、ポンッという音と共に一つに戻った。そして、彼女が飛び出してきた後の靴下からは、情熱の赤いドレスに身を包んだプラチナが頬を染めながら静々と進み出てきた。その隣には紳士然とした身なりのダーギャロスもいる。二人はまさか昨夜からずっとこの靴下の中にいたのだろうか。
「魔王さま。幸せにして下さいね」
「仲人は私が務めさせていただきます。生きてこの日を迎えられるなど、いやぁめでたい。父君に届ける良い冥土の土産になりました」
 ガラーンガラーンと教会の鐘が鳴り響く。魔王の脳裏にも鳴り響く。うるさいなぜだと思えば、再び分裂したピアが一匹ずつ鐘を手にして鳴らしていた。
 そうして。
 魔王の大絶叫が、白く降り積もった雪原の上を駆けていった。


END

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